情報コーナー

飲料水の酸性化
? Drinking Water Acidification ?

はじめに

実験動物の飲水は消毒のために常時酸性化されることがあります。Edstrom Industries は自動給水システムの常時酸性化のための装置(Central Proportioner)そして給水ボトルの水の酸性化の装置(Bottle Filling Proportioner/Station)を提供しています。この冊子は実験動物のための酸処理の応用に関する一般的な質問のいくつかに答えるために書かれたものです。

 以下のような質問があります。

 ● “飲水をどれだけのpHに調節しなければならないか?”

 ● “どんなタイプの酸を使わなければならないか?”

 ● “実験動物の健康に及ぼす酸性化水の影響はないか?”

酸性化および飲水の水質についてご不明の点があれば、エデストロム・ジャパン 電話 03-3588-8551 までお問い合わせください。

Q & A

酸性化の利点はなにか?

低いpHの水は緑膿菌(水中に一般的に存在する日和見病原体)や他のグラム陰性菌に対して殺菌的です。酸性化は細菌性疾患が飲水を介して実験動物の間に伝播するのを防ぐために用いられます。

酸性化水は感染マウスから緑膿菌を排除しないし、感染マウスから非感染同ケージ内マウスへ糞便・経口ルートで菌が伝播するのは必ずしも予防できません。しかし、緑膿菌や他のグラム陰性菌が水を介して伝播するのを防ぐことは期待できます。(Small, 1983)

実験動物の飲水消毒に推奨される pH はどれだけか?

一般的ガイドラインとして、飲水は pH 2.5-3.0 に酸性化しなければなりません。このpH範囲に対する一つの根拠は以下の結論を持つある試験です:pH が3以下の溶液は緑膿菌および他のグラム陰性真正細菌に対して 60 秒以内に殺菌効果を持ちます。(Tanner and Sammantha, 1992)

酸性化水と動物に関する初期の試験では 2.0 と低い pH を用いていました。しかし、酸性化水は非常に腐蝕性が強いので、pH を必要以上に下げるべきではありません。

飲水のpHを下げるためにはどんなタイプの酸を用いなければならないか?

塩酸(HCl)が最もよく使われています。

Hermann (1982)は飲水を酸性化するためにテトラサイクリンを用いたことを報告しています。テトラサイクリンは直接的な抗生活性を持つという利点をもっています。

Hall (1980) はマウスの飲水の塩酸処理と硫酸処理の両方の効果を検査しました。この試験によって、硫酸で処理した水のほうが塩酸で処理した水よりも放射線照射マウスにおいて顕著な健康障害を起こすことがわかりました。

緑膿菌に対する他の酸の有効性 はMorton (1983) とTanner & Samantha (1992) によって報告されています。

酸性化飲水にはどのような配管材料が用いられるか?

PH 2.5-3.0 に酸性化された水は腐蝕性であり、腐食耐性材料で全体が作られている装置(または給水ボトル)でのみ使用しなければなりません。使える材料は 316 ステンレススチールとプラスチックです。真鍮、銅、あるいは低グレード(304)のステンレススチールは用いてはなりません。完全に耐性のタイプ 316 のステンレススチールでも酸性化水によってある程度の攻撃を受けます。

酸性化水の中で発育できる微生物はいるか?

イエス、低いpHの水の中で増殖できる微生物がおり、生き残れる(増殖はしない)微生物もいます。以下の文献が酸耐性の微生物について考察しています。

Meltzer, 1993
糸状菌および放線菌類(ノカルジアのような糸状菌)は pH 2 の水に適応して増殖できます。芽胞形成桿菌は 2 の pH に抵抗します;しかし、その条件下では増殖できません。
Tanner & Samantha, 1992
この試験によって pH が 3 以下の溶液は緑膿菌とグラム陰性菌に対して 60 秒以内で殺菌的であることがわかりました。この効果はグラム陽性菌および酵母では観察されませんでした。

3カ所の実験動物施設が酸耐性微生物について Edstrom Industries へ報告してきています。

酸耐性微生物について報告してきた最初の施設では、pH 2.8 に酸性化した水の中に真菌と“自由生活寄生体”を発見しました。正確な同定は行われていません。

2番目の施設はフラッシングしたことのない壁取り付けマニホールドから採取した酸性化水の中に“芽胞を持つ糸状菌”を発見しました。塩素消毒してフラッシングを行ったところ、菌の発育がなくなりました。

3番目の施設は酸性化飲水中にアオカビおよび Exophiala(別の真菌)を発見しました。アオカビは入ってくる水道水中にも存在します。自動給水装置を塩素消毒してその発育を阻止しました。

酸性化水を配水する自動給水装置は 20 ppm の塩素溶液で定期的に(必要に応じて毎月、3カ月ごとに、あるいは毎年)消毒しフラッシングして酸耐性の微生物を殺さなければなりません。酸耐性微生物は給水ボトルでは通常問題となりません。その理由は、ボトルはすでに洗浄されており定期的に消毒されているからです。

注意
自動給水装置では、塩素処理水を pH 5.0 以下に酸性化してはなりません。低い pH では、塩素が溶解塩素ガス(Cl2)として存在し、これは実験動物の飲水バルブのシリコン O-リングの膨潤を起こす可能性があります。

いつ/どこで pH を測定するか?

水中の塩素とは異なり、酸性化水の pH は比較的安定であり、したがって自動給水装置内のいろいろなポイントで採取したサンプルの pH はほぼ同じです。自動給水装置の再遠位端から採取したサンプルの pH とプロポーショナーの出口から採取したサンプルの pH が同じであることを先ず検証します。酸性化水の pH が適切な範囲にあることを確認するためにはプロポーショナーの出口から毎日サンプリングすることが推奨されます。あるいは、処理水の pH を自動的にモニターするためにインライン pH 分析計を設置することができます。

サンプルの保持時間は?

pH測定には、サンプルをすぐに検査しなければなりません。pH を分析するサンプルを保存してはなりません。

酸性化飲水の健康への影響はなにか?

ヒトの健康に及ぼす影響

2.5-3.0 の pH 範囲では、ヒトの健康にすぐに直接的な影響はありません。炭酸飲料水の pH 値は 2.0-4.0 の間です。同じことが一般に目盛の酸性側にある食品(たとえばリンゴは 2.9-3.3)にもあてはまります。(DeZuane, 1990)
実験動物の健康に及ぼす影響

酸性化水のマウスに及ぼす影響に関する論文がいくつかあります。詳細については参考文献をご参照ください。

  • Les (1968)
    酸性化・塩素処理水(pH 2.5 および 10 ppm 塩素)の C3H/HeJ および C57BL/6J マウスにおける繁殖に及ぼす影響を6カ月間にわたり調べたこの試験は水処理の悪影響がまったくないことを示しています。
注意
自動給水装置では、塩素処理水を pH 5.0 以下に酸性化してはいけません。
  • Hall, white and Lang (1980)
    この試験では、塩酸または硫酸のいずれかによって pH を 2.0 あるいは 2.5 に酸性化した水を無作為交配マウスの雄の正常または免疫抑制の両方に6週間与えました。正常および免疫抑制マウスの両方における唯一の有意な変化は pH が 2.0 のときの増体重と摂水量の減少でした。pH が 2.5 のときには摂水量は影響を受けませんでした。観察された変化の中には免疫抑制動物のほうが大きいものがありました。pH 2.0 の硫酸処理水を飲ませたときに端末回腸から分離した菌種の数が減っていました。
  • Hermann, White and Lang (1982)
    この試験では、塩酸、クロルテトラサイクリン、あるいは次亜塩素酸ナトリウムで処理した水をマウスに 120日 間与えました。pH 2.0 に酸性化した水を飲んだマウス脾重量が低く、脾の体重比が減少していました。このことは成長率の遅延を反映していました。全体的に、酸性化水の摂取によってマウスの in vivo 免疫機能に有意の影響を与えないように思われました。“これらの添加によって実験動物に重篤な健康障害はないが、実験的変数に影響のおそれがある”と結論づけられています。
  • Tober-Mever, Bieniek, and Kupke (1981)
    長期の酸性化飲水に対するラットとウサギの反応を7カ月間にわたって観察しました。以下のパラメーターを調べました:離乳に始まる成長曲線、血液学、血糖、総血清タンパク、クレアチン、電解質、および血清酵素を主要臓器系の機能をモニターするために選びました。結果はラットとウサギにおいて、飲水を塩酸で pH 2.3-2.5 に酸性化しても検査したパラメーターになんらの有害作用のないことを示していました。

現在わかっていることに基づき、酸性化水は pH 2.5-3.0 では実験動物に重篤な健康障害を起こさないようであるが、環境変数として評価すべきです。

公共水道水に許容されるpHの範囲は?

飲用に許容される pH の最低と最大の範囲は 6.5-8.5 です。この範囲は安全飲料水法の二次飲料水パラメーターに含まれます。二次最大汚染物濃度は連邦政府による非強制的のものであり、飲料水の美的水質と大衆の許容性に影響する飲水中の汚染物に限界値を定めています。一次飲料水パラメーターとは異なり、“二次”は直接健康に関連していないことを意味します。

もっと低い pH 限界値が公共の配管と住宅の配管における腐蝕性を最小限にするために設定されています。ここに腐蝕性によって起きる問題のいくつかを示します。(DeZuane, 1990)

  • 鉛やカドミウムのような汚染物が鉛管や亜鉛メッキ管を流れる腐蝕性の水によって取り込まれます。
  • 同様に、腐蝕性の水が銅管、亜鉛メッキ管、および裏のないダクタイル管および鋳鉄管に腐蝕性の水が用いられるときに銅、鉄、および亜鉛の濃度が増加する可能性があります。
  • コンクリートまたは石綿セメント製のパイプは低い pH で腐食させると飲水中に石綿の繊維を遊離します。
  • 微生物は腐食産物中に保護されます。これは公共水道配管中における腐食水の一般的な問題です。

pH 限界値を下げる理由は、酸処理水または純水を配水するために設計された実験動物用自動給水装置には当てはまりません。なぜなら、すべての水に接する材料は腐食耐性のステンレススチールまたはプラスチックであるからです。

参考文献

DeZuane, J. 1990. Handbook of Drinking Water Quality: Standards and Controls, Van Nostrand Reinhold, New York, NY.

Hall, J.E., W.J. White, and C.M. Lang. 1980. Acidification of drinking water: It’s effects on selected biologic phenomena in male mice. Lab. Anim. Sci. 30:4:643-651.

Hermann, L.M., W.J. White, and C.M. Lang. 1982. Prolonged exposure to acid, chlorine, or tetracycline in drinking water: Effects on delayed-type hypersensitivity, hemagglutination titers, and reticulo-endothelial clearance rates in mice. Lab. Anim. Sci. 32:603-608.

Les, E.P. 1968. Effect of acidified chlorinated water on reproduction in C3H/HeJ an C57BL/6J mice. Lab. Anim. Care 18:210-213.

McPherson, C.W. 1963. Reduction of and coliform bacteria in mouse drinking water following treatment with hydrochloric acid or chlorine. Lab. Anim. Care 13:737-744.

Meltzer, T.H. 1993. High Purity Water Preparation For the Semiconductor, Pharmaceutical, and Power Industires. Tall Oaks Publishing, Inc. Littleton, CO. pp. 57-59.

Morton, H.E. 1983. Pseudomonas. In: Disinfection, Sterilization and Preservation, 3rd Edn. (Block, S.S., ed.), pp. 401-413, Lea & Febiger, Philadelphia, PA.

Small. J.D. 1983. "Experimental and Equipment Monitoring." The Mouse in Biomedical Research (H.L. Foster, J. D. Small, and J.G. Fox, eds.), Vol. 3, pg. 90, Academic Press, New York.

Tanner, R.S., and J.A. Samantha. 1992. Rapid bactericidal effect of low pH against Pseudomonas aeruginosa. J. of Industrial Microbiology 10:3-4:229-232.

Tober-Meyer, B.K., Bieniek, H.J., and I.R. Kupke. 1981. Studies on the hygiene of drinking water for laboratory animals. 2: Clinical and biochemical studies in rats and rabbits during long-term provision of acidified drinking water. Laboratory Animal. 15:111-117.


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